PR
「親が認知症になったかもしれない」
・・・というのは、なかなか受け入れたくないことであり、
「いやいや、まさかね。ただの物忘れ、老化でしょう」
と、事実の確認を先送りにしてしまいがちです。
夫婦間での場合はこれはさらに強い傾向にあり、長年一緒に暮らしてきた、夫(妻)が認知症になったというのは、なかなかそれを受け入れることができません。
さらに、親世帯が子供と別に暮らしている場合は、夫婦のどちらかが認知症のような傾向があっても、もう一方はそれを認めようとしないので、子供にも状況は伝わることはなく、発見もますます遅くなるようです。
ですが、認知症は病気です。
現在は完治する治療法は見つかっていませんが、早めに治療を開始することでその進行を遅らせることはできます。
他の病気と同様に「早期発見」がとても重要なのです。
ここでは「もしかしたら認知症?」という不安を持った場合に、まずすべきことをまとめました。
家族ができる認知症のチェックポイントや、実際にどうやって専門医を探すのか、そこでの検査はどういうものなのかなどを解説しています。
認知症にかかると、「あれ?」と思うようないろいろな変化が出てきます。
はじめに「あれ?」と思うのは、
同じ話を何度もする
料理の味がおかしくなる
片づけができなくなる
服装がだらしなくなる
など、「あれ?お母さん(お父さん)らしくないな」というちょっとしたことから変化が出てきます。
専門的に言うなら、認知症の症状には、「中核症状」といわれる脳の働きの低下によって引き起こされる誰にでも起こる可能性のある症状と、「周辺症状(BPSD)」という本人の性格や環境などによって起こる症状があります。
中核症状には
「記憶障害」、「理解・判断力の障害」、「見当識障害」、「実行機能障害」などがあります。
周辺症状(BPSD)には
「多弁・多動」、「暴言・暴力」、「不潔行為(排泄トラブル」、「幻覚・妄想」、「うつ状態」、「徘徊」、「昼夜逆転」、「不安・焦燥」などがあります。
※行動・心理症状ともいわれます。
かなり個人差もありますし、認知症の初期症状では、自分も周りも気が付かないような小さな症状が多く、見落とされることも多いでしょう。
認知症の症状についてはこちらで具体的に詳しく解説しています。
→ 認知症の症状
こちらは「一般社団法人 認知症予防協会」のリリースしている簡単な認知症自己診断のテストです。
5分ほどで終わります。
私もやってみたのですが、簡単かと思いきや、案外頭を使ってしまいました。
でも落ち着いてやればほぼ満点は取ることができるので、これができない状態が認知症ということなのかな?と認知症のイメージを理解することもできます。
→ 認知症自己診断テスト
「うちの親、もしかして認知症・・・?」と思うようなことがあっても、認知症の初期段階ではなかなかそれに気が付くことは難しいものです。
親と同居していて、普段から接している場合は、変化に気が付きやすいですが、住まいが別の場合はなかなかそれに気が付くことはできないでしょう。
特に実家が遠方で、会うのはお盆や正月などの帰省時の数日のみというのでは、親も平常心ではなく気持ちも緊張しているはず。
ですので本当は認知症の症状が出ていても、久しぶりに会った子供たちの顔を見て、日常ではない自分になっていることもあるかと思います。
親が高齢になっている場合は、普段から「もしかしたら?」という気持ちをどこかに持ち、まめに電話をしたり、できるだけゆっくり帰省をしたりしたいものです。
先ほどの認知症自己判断テストなどを、冗談半分のような雰囲気で一緒にやってみるのもいいかもしれません。
また、両親のどちらかが認知症になっていても、もう片方の親はそれを認めていなかったり、わかってはいても子供には伝えないというケースも多くあります。
高齢の親が一人で認知症のケアをするのは想像以上に大変です。
でも子供に心配をかけたくなくて一人で頑張っている場合もあります。
片方の「親にもしかして?」と思うようなことがあったら、聞きづらくても、ここは一度確認のためにも話をしておくべきだと思います。
「もしかして認知症?」という疑いを持った時、早期に気が付くためのチェックリストがあります。
家族から見て、次のような傾向が見えたら認知症のサインとして疑ってみることも考えましょう。
【もの忘れがひどい】
【判断理解力が衰える】
【時間・場所がわからない】
【人柄が変わる】
【不安感が強い】
【意欲がなくなる】
こちらは「認知症の人と家族の会」という公益社団法人が体験談からまとめて作成したとてもわかりやすいチェックリストです。
医学的な根拠の元で作られたものではありませんが、家族が判断するための認知症チェックリストとして多くのところで利用されています。
老化による物忘れは、年々記憶力は低下してきていますし、私たちでもよくあること。
この老化による普通の物忘れと、認知症の違いについては、知識がないとなかなかその差がわかりにくいこともあります。
なんでもかんでも「認知症」と決めつけてしまうのは親にとってもいい気分ではなく、大きく心を傷つけてしまいます。
少し、老化による普通の物忘れと認知症の違いについても知っておきましょう。
老化(加齢)による物忘れ | 認知症 | |
---|---|---|
原因 | 加齢による脳の生理的な老化。 | 脳の神経細胞の変性や脱落が原因。 |
物忘れの内容 |
体験の一部を忘れる。 |
体験そのものを忘れてしまう。 |
症状の進行 | 進行・悪化しない。 | どんどん進行していく。 |
判断する力 | 判断力や理解力には変化はない。 | 新しいことが覚えられず、理解力判断力が低下していく。 |
自覚症状 |
自覚がある。 |
自覚がない。 |
生活 | 支障はほとんどない。 | 支障がある。 |
具体例 |
・昨日の夕飯のメニューが思い出せない。 |
・夕飯を食べたことを忘れてしまう。 |
このように認知症による物忘れは大きく特徴が異なります。
認知症になると「夕飯はまだ?」と何度も聞かれるという話はよく耳にしますが、これも夕飯を食べてたこと自体を覚えていないから起こることです。
ここに大きな違いがあるということを理解し、親の状態が「認知症」なのか単なる老化なのか、をよく観察していきましょう。
上記のチェックリストなどから、「やっぱり認知症の可能性が高い」という場合は、認知症の診察ができる専門医を探し受診します。
認知症の専門医は、大きな病院の「精神科」や「神経内科」、または「もの忘れ外来」、「認知症相談医」などにいます。
しかし、専門の「もの忘れ外来」や「認知症相談医」などではなく、精神科や神経内科の場合は、認知症の専門知識が乏しい医師しかいないケースもあります。
精神科や神経内科の医師は必ずしも認知症の分野でも専門医であるとは限らないからです(もちろんその両方に精通された先生もたくさんいらっしゃいますが)。
専門医の探し方としては、かかりつけの医院で一度相談してみるのもいいでしょう。
医師同士のつながりで信頼できる良い先生を紹介してくれるかもしれません。
また担当のケアマネジャーに相談するのもいいでしょう。
今まで担当してきた方の中には当然認知症の方もいるはずですので、いろいろな情報が入ってきているはずです。
ケアマネジャーがいない場合は、「地域包括支援センター」で相談に乗ってもらうことができます。
インターネットでも認知症の専門医の情報は収集できます。
また、かかりつけ医院、ケアマネジャー、地域包括センターなどで紹介された情報でも、100%信じるのではなく、やはり自分たちでしっかり情報の分析をしていくべきです。
紹介された医院や医師についての情報も口コミや評判がどうなのか、医師の経歴などもあらかじめ調べておくといいと思います。
認知症に対する医師の知識の差はまだまだ大きいきく、良い先生に巡り合えるかどうかで今後の病気の進行も変わってきます。
認知症の進行が早いか遅いかは、親の本人だけではなく介護する家族全員の大きな問題です。
良い先生を探すのは私たち家族の役目。
情報収集は手を抜かずしっかりしていきましょう。
もちろん、実際には調べた情報を元に診察を受け、そこでの印象で判断することになります。
いくつかの選択肢を持ち、受診後に「ここはあまり良くないかも」と思ったら、他も受診してみるなど納得のいく治療を受けられるようにしていきましょう。
以下にインターネットで調べることが出来る認知症専門医の情報収集先を掲載しています。
こちらもぜひ参考にしてみてください。
「認知症疾患医療センター」とは、認知症患者とその家族が住み慣れた地域で安心して生活ができるための支援の一つとして、都道府県や政令指定都市が指定し、設置するもので、認知症疾患における鑑別診断、地域における医療機関等の紹介、問題行動への対応についての相談の受付などを行う専門医療機関です。
[※参照 認知症疾患医療センター運営事業- 厚生労働省]
各都道府県ごとに設置されているので、認知症の初めの相談窓口として利用できます。
所在地は各県庁のホームページなどで紹介されています。
以下は各都道府県ホームページで紹介されている「認知症疾患医療センター一覧」ページのピックアップです。
(注:まだ県で一覧がないところもあります)。
「認知症の相談をどこにすればいいのかわからない」、「認知症の専門病院がどこにあるのかわからない」という場合には、こちらで探してみるといいでしょう。
北海道 |
関東 | 中部 | 近畿 | 中国 | 四国 |
九州 |
---|---|---|---|---|---|---|
|
|
|
|
|
|
|
日本認知症学会は1982年に設立され、認知症に関連する臨床および基礎の諸分野の科学的研究の進歩発展をはかり、学術集会開催,学会誌発行等を行っている機関です。
こちらの学会に認定されている認知症専門医のリストからも認知症専門医を探せます。
認知症のチェックリストのところでも紹介した「認知症の人と家族の会」でまとめている「もの忘れ外来」の一覧です。
こちらのリストでも認知症の専門医が探せます。
希望する病院が見つかれば次は受診となりますが、この際にはいくつか注意したいことがあります。
まずは親本人の心のケアです。
認知症が初期の段階では、「認知症の検査に行こう」とストレートに話してしまうと、「私がボケてるというのか!病院には行かない!」と、怒り出したりして、なかなか受診させることは難しいのではないでしょうか。
この気持ちは当然のことだと思います。
誰でも認知症にはなりたくないですし、それを子供や家族に言われてしまうのは大きくプライドも傷つきます。
一度こじらせてしまうとその後はさらに病院に連れて行くのは難しくなります。
ですので、他の家族とも相談しながら、一般的な健康診断を装うなど「優しい嘘」も必要ではないかと思います。
受診する病院の方でも「認知症の検査とは伝えていない」とあらかじめ話しておけば、それなりに話も合わせてくれるでしょう。
認知症専門医であればそのようなケースはいつものことだと思います。
また受信時には面談には、日常での様子をしっかり医師に伝えられる準備をしておきましょう。
診察時の短時間と検査だけでは伝えきれないこともあります。
日常生活でどんな様子なのかを家族の口からしっかり説明できるように、次のようなことをしっかりメモしていきましょう。
ただし、親本人の前で「認知症かも」などをいう言葉やできないことをバカにするような言葉がうっかり出てしまわないように気をつけましょう。
初めの受診の時には「この先生でいいか?」という医師の見極めもあるので、できれば数名で話を聞きたいものです。
今後のためにも親の認知症についてお互いに相談しあえるようにしておくことが必要です。
認知症では、診察時にまず、血圧測定、聴診、発語、聴力、手足の麻痺や不随意運動の有無、歩行状態などについて調べます。
その後、いくつかの専門的な検査が行われます。
どんな検査があるのかいくつか紹介しておきましょう。
CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)を使い、脳に病変があるかどうかを知ることができます。
脳に萎縮や血管のつまり、腫瘍などがないかをを画像で確認します。
症状によって病変の場所や様子が異なるので、病気の診断に役立ちます。
がんの検査で使われるPET(陽電子放射断層撮影)で、脳の代謝やアミノロイドβの沈着具合などをチェックする検査が行われることもあります。
SPECT(単一光子放射断層撮影)という検査では、脳の血流の様子を見ることができます。
認知症の中のレビー小体型認知症の診断ができるMIBG心筋シンチグラフィという画像検査が行われることもあります。
記憶障害などを調べるために、簡単な質問に答える心理検査として、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタル検査(MMSE)などがあります。
<改訂>長谷川式簡易知能評価スケールではこのような質問が行われます。
「これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞くので覚えておいてください。」
「100から7を順番に引いて言ってください。」
「知っている果物の名前をできるだけ多く言ってください。」
※このような質問にうまく答えられないのが認知症の始まりです。
以上のように実際の脳の状態を画像で見る検査、心理テストや計算などのテスト、そして問診での面談内容などを踏まえ。総合的に認知症の診断が行われます。
診断結果は、本人にではなく、家族に伝えらるのが一般的です。
その診断結果に合わせて今後の治療の方針を医師と話し合っていくことになります。
「認知症です」という診断が出てしまうのは家族にとっても辛いことですが、早期発見は何よりも重要です。
今後の治療で進行を遅らせることも期待できますし、家族としてどのように介護していけばいいのかの相談もできます。
また、まだ要介護認定を受けていない場合は、介護保険での介護サービスが利用できるように、できるだけ早く要介護認定を受けましょう。
今はまだ認知症の初期段階で、それほど問題は起きていないかもしれませんが、今後進行していった際には様々な介護サービスの支援が必要になってくるでしょう。
認知症の本人だけではなく、介護する家族にとっても助けになるサービスがたくさんあるので、しっかり利用していくべきです。
要介護認定についてはこちらで解説しています。
→ 要介護認定の申請方法から調査・判定・認定まで|要介護度と支給限度額
認知症は病気ですが、死因に「認知症」という病名が書かれることはほとんどありません。
認知症になったからといって、それによって命にかかわるような病気にはなるわけではないのです。
ただし、認知症が進行すると、通常の状態ではでは自分で気がつくはずの体の不調がわからなくなります。
「調子が悪い」「どこか体の具合が変だ」という自己判断ができなくなります。
そのため体の変化に気が付かず気が付いたら他の病気が進行してしまったということも多いのです。
また、認知症は家族の生活も大きく変えます。
認知症が進行していってしまうと、誰か一人だけの負担では、とても支えきれないということも多くなるでしょう。
現在の医学では認知症を完治させる方法は見つかっていません。
ですが、その進行を遅らせる治療法はいろいろ研究されています。
また認知症にはいくつか種類があり、そのタイプによって治療法や症状も変わります。
残った家族でしっかり話し合いをしながら、誰がどこでどのようにこれから介護をしていくのか、しっかり話し合いながら今後のことを考えていきたいものです。
認知症の知識をさらに深めよう
認知症の種類や症状についての詳しい解説はこちら
→ 認知症の種類と症状|家族を悩ませる認知症の困った症状